女児アニで「かっこいい自分」を貫いてくれる事への感謝

 プリチャンを三年間観てていいな〜って思うこともこれは…って思うこともあるんですけど、良いなって思うことの一つにかっこいい系で登場したキャラが途中で可愛い系の衣装を着てイメチェン〜っていう下りが全然ないことがあるんですよね。

 

 一年目のかっこいい枠は緑川さら様。彼女はライバルグループ「Meltic StAr」のクールポジションで、ギターが得意で衣装はロックテイストのブランド「Romance Beat」を着用。同チームセンターで幼馴染の赤城あんなちゃん(この子がまたとんでもない良い女(※ここでいう良い女とは、グラマラスとかそう言うのではなく人間として最高という意味です)なのですがそれはまた別の機会に)の可愛さを全世界に発信するため彼女ともう1人の幼馴染、紫藤めると共にアイドルデビューをします。あと、アイドルとしてはクール系で通っていますが、本当は大の可愛いもの好きで(幼馴染の可愛さ発信の為に人生捧げちゃってるんだから納得です)ふわふわしたぬいぐるみや小動物を見ると表情がでろんでろんに崩れてしまう一面もあります。

 さてここまでで、既にアニメとして「彼女に可愛い服を着せる」ための伏線は二つ貼っているわけです。

・超可愛い子とチームを組んでいて、その可愛さを尊重している

・実は可愛いもの好き

 

 けれど彼女は決して可愛い服を着ません。例えばあんなちゃんと2人でライブをする時は彼女のお気に入りのロリィタ系ブランドのお洋服を着たりもしますが、それもあくまでパンツスタイルの、お姫様ではない衣装。アニメ2年目では主要キャラ全員に「ジュエルコーデ」というキラキラ宝石モチーフの特別なドレスが配られましたが、さら様だけはメンバーの中で唯一パンツスタイルのコーデを着ます。

 ライブ以外でもその信念は崩れません。彼女の制服は一年目のメンバーの中で唯一ネクタイを締めています。パーティーでみんながドレスアップをしていても、彼女はタキシード風のスタイルできめています。広告のお仕事でドレスを着ることもありましたが、それもあくまで可愛いドレスではなく、大人の女性のようなエレガントで落ち着いた雰囲気のお洋服なのです。

 メルティックスターのセンターは曲によって変わりますが、番組撮影などでの基本センターは赤城あんなちゃんです。つまり、ラブリー属性がセンター枠なのですが、このチームはむしろかっこいい方へと突き進んでいます。3人共通デザインのコーデはディスコ風ファッション、宝塚のようなステージ衣装、サイバーパンク風など様々なジャンルのダンサブルな衣装があります。(余談ですが、何となく初代リカちゃんを彷彿させると思っています。)しかしここまで出てきた全ての衣装で、さら様はあんなちゃんの可愛さを発信する為に自分も可愛い系に寄ろうとは微塵もしていません。むしろ、自分がかっこよくあることで彼女の可愛さを最大限に魅せようとしています。そしてそのプロデュースは大成功しているわけです。

 身もふたもないことを言いますが物語は三年間も続いているわけです。だから、一話くらいサプライズでさら様がラブリー・ポップな衣装を着る回があってもおかしくないわけです。一年目では「可愛い物が好きな自分を隠している」と主人公の桃山みらいちゃんに告白するシーンがありましたし、二年目では大会に優勝した記念にふわふわポップなお洋服をもらう描写がありました。三年目の現在は正直可愛いもの好きな面を誤魔化しきれていない描写も多々あります。しかし、CGライブどころかアニメのワンカット、止め絵ですらフリフリ・フワフワ・ラブリーなさら様は出てこないのです。(※アニメディアなどの媒体はチェックしていないため、そちらでそういったコンセプトの絵があったらすみません。)このさら様の一貫した「格好いいアイドル像」は、本当に素敵だなあと思っています。

 

 さて、2年目にはかっこいい系アイドルの後輩が登場します。メインアイドルの中で唯一の後輩属性、黒川すずちゃんです。

 ダンスが得意で、尊敬する兄のような「カッコいい」を目指し日々奮闘しているアイドル。イメージカラーも黒と、余念がありません。

 このすずちゃんですが、ユニット「Ring Marry」を組んでいるパートナーは真逆の「かわいい」を貫くアイドル、金森まりあちゃんです。

 まりあちゃんは森羅万象にかわいいを見出す一見とんでもない天然不思議ちゃんに見える女の子ですが、その実自分の中にはっきりした軸を持つとても強いアイドルです。そんなまりあちゃんとチームを組むまでに、すずちゃんは価値観の違いに悩まされます。

 かっこいいを目指しているすずちゃんですが、まりあちゃんは森羅万象がかわいいので勿論すずちゃんもかわいいものとして認識しているわけです。そこで可愛い衣装を強要されそうになるわけです。これは女児アニメなのでまりあちゃんには一切悪意はありません。しかし、それがむしろタチが悪い。可愛いではなく格好いいを選びたい、格好いいを選ぶ自分と可愛いを愛するあの子ではチームなんて上手くいかないのではないか。そんな葛藤の末、2人は折り合いをつけて「かっこかわいい」アイドルを目指すと決め、チームを組みます。

 さて、もう一度言いますがこれは女児アニメです。かっこいい衣装も勿論需要はありますが、圧倒的に可愛い衣装の方が「売れる」わけです。そうじゃなければ、この女児アニメ戦国時代にガチのかっこいい系主人公が出ていないのはちょっとおかしいですよね。ショートカットでイメージカラーは寒色系、パンツスタイルで属性もクール……しかし、プリチャンの主人公はラブリーでピンク髪のみらいちゃんな訳です。すずちゃんが可愛い衣装を着て恥じらう姿がギャップ可愛い!で売り出したって、それなりに売れるだろうしユニット結成までの話も短くできます。しかし、プリチャンはすずちゃんとまりあちゃんの物語をそれはもう丁寧に、優しく、かっこいいと可愛いの共存を描いているのです。

 さて、リングマリィは二年目から登場したアイドルなので共通衣装はまだ二着しかありません。そしてそれらは恐らくまりあちゃんが主体となってデザインしたであろう、レースとフリルがふんだんにあしらわれた華やかなデザインになっています。しかし、どちらもすずちゃんの衣装はパンツスタイルにアレンジされています。これは、まりあちゃんのすずちゃんに対する「かっこいい」へのリスペクトです。

 勿論すずちゃんもまりあちゃんの「かわいい」に対してリスペクトを忘れません。「かわいい行進」という彼女独特の行為にも付き合いますし、まりあちゃんが元気を無くした時は自らがぬいぐるみにアフレコをして彼女を元気づけようとします。

 すずちゃんもさら様のようにドレスコードのある場面ではタキシード風コーデに身を包みます。制服も、黒シャツに黒ネクタイを組み合わせています。更に、スカートの下にはレギンスを着用してダンスを踊ったときに中が見えないように工夫しています。彼女の「かっこいい」は、自己表現と共に利便性を求めた結果の「かっこいい」でもあるわけです。

 

 プリチャン三年目もそろそろ後半に向かいつつあります。願わくば、「かっこいい」アイドルである彼女たちがそのかっこよさを貫いたまま物語を走り抜くことが出来ますように。